防災の日に考える ― 災害時の歯と口の健康管理

9月1日は「防災の日」。地震や豪雨、台風など、いつ起こるか分からない自然災害に備える日です。近年、自然災害の被害が多くなって不安な日々を過ごしているかと思います。非常食や飲料水、避難経路を確認することは多くの方が意識されていますが、意外と見落とされがちなのが「お口の健康管理」です。実際、避難生活において口腔ケアが不十分になると、全身の健康にも影響を及ぼすことが分かっています。



災害時、なぜ歯や口が問題になるのか

大規模災害の避難所では、水の確保が難しく、歯磨きやうがいを十分に行えない状況が続くことがあります。その結果、歯垢や細菌がたまりやすくなり、虫歯や歯周病のリスクが高まります。

特に高齢者では、口腔内の細菌が肺に入り込むことで「誤嚥性肺炎」を引き起こす危険性があります。実際に、阪神・淡路大震災や東日本大震災では、避難所生活中に肺炎で亡くなられる方が少なくありませんでした。その背景には「口の清潔を保てなかった」ことも大きな要因と考えられています。


水がなくてもできる歯磨きの工夫

では、避難所で十分な水が使えないとき、どうやって歯を磨けばよいのでしょうか。以下に工夫をまとめます。

1. 歯ブラシは必ず携帯する

非常用持ち出し袋には、歯ブラシを人数分入れておきましょう。可能であれば小さめの歯磨き粉や洗口液(アルコール不使用のもの)もあると安心です。

2. 水を最小限に使う歯磨き

・コップ1杯(約30ml)の水があれば十分です。
・歯ブラシを軽く湿らせて磨き、口の中の汚れはティッシュやガーゼで拭き取ります。
・最後に少量の水で口をすすげばOK。

3. 水がまったくない場合

・歯ブラシがあれば乾いたままでも歯を磨けます。
・ティッシュやガーゼ、ウェットティッシュで歯や頬の内側を拭うだけでも効果があります。
・キシリトール入りのガムやタブレットを噛むことも唾液の分泌を促し、口腔環境を改善します。


避難所でできる口腔ケア習慣

避難生活が長期化すると、体も心も疲れてケアがおろそかになりがちです。ですが、次のような習慣を持つだけで大きな違いが出ます。

  • 食後に必ず歯を磨く(できない場合は口をゆすぐ、ティッシュで拭く)
  • うがい用に少量の水を確保しておく
  • 入れ歯の方は必ず清掃する。義歯洗浄剤がなければ流水でこすり洗いする
  • 口や舌を動かす体操をする(「パタカラ体操」など)ことで、唾液分泌や誤嚥予防につながります。

災害時に矯正器具が取れた場合の対処法

矯正治療中の方にとっては、避難生活のなかで「装置が外れた」「ワイヤーが飛び出した」といったトラブルが起こる可能性もあります。そんな時、すぐに歯科医院に行けるとは限らないため、応急的な対処法を知っておくことが大切です。

ブラケットが外れた場合

  • ワイヤーについたままのブラケットは無理に外さず、頬や歯ぐきに当たらないようワックスやティッシュをかぶせて保護。
  • 完全に取れた場合は小袋に入れて保管し、診察時に持参しましょう。

ワイヤーが飛び出した場合

  • 矯正用ワックスがあれば飛び出した部分に付けて保護。
  • 代用としてティッシュやガーゼでもOK。
  • 強い痛みがある場合、清潔な爪切りやニッパーでカットしても良いですが、最終手段です。

バンドが外れた場合

  • 無理に戻さず外して保管。
  • 食べ物が当たるとしみることがあるため注意。

マウスピース矯正の場合

  • 壊れたアライナーは使用せず、次のステップか前のステップを装着して時間をつなぐ。
  • 非常袋に1~2ステージ分のアライナーを入れておくと安心です。

矯正患者さんにおすすめの防災グッズ

  • 矯正用ワックス
  • 小型ミラー
  • 爪切りや小型ニッパー
  • 予備のアライナー(マウスピース矯正の場合)
  • 保存袋(外れた装置を入れる用)

応急処置後に大切なこと

応急処置はあくまで一時的な対応です。避難生活が落ち着いたら、必ずかかりつけの矯正歯科に連絡し、できるだけ早く診察を受けてください。放置すると治療計画が狂い、治療期間が延びる可能性があります。


家庭で備えておきたい「口腔ケア防災グッズ」

  • 歯ブラシ(人数分)
  • 旅行用の小型歯磨き粉
  • 洗口液(アルコール不使用タイプ)
  • キシリトールガムやタブレット
  • ティッシュやウェットティッシュ
  • 義歯ケースと洗浄剤

災害と口腔ケアの意外なつながり

お口の中を清潔に保つことは、単に虫歯や歯周病を防ぐだけではありません。災害時に多い「誤嚥性肺炎」の予防や、全身の感染症リスクを下げることにも直結します。つまり、口腔ケアは「命を守るケア」でもあるのです。


まとめ

災害への備えは食料や水、避難経路の確認だけでは不十分です。避難所生活が長引いたときに真っ先に影響を受けるのが「お口の健康」であり、そこから全身の病気へとつながる可能性があります。まずは予備の歯ブラシを防災グッズに入れることから始めてみて下さい。

特に矯正治療中の方は、装置のトラブルに備えた知識やグッズが不可欠です。「防災の日」をきっかけに、非常用袋に歯ブラシやワックスを入れているか、マウスピースの予備を準備しているかを確認してみましょう。小さな準備が、あなたやご家族の健康を守る大きな力になります。


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